相続財産の中に賃貸物件があるとき

ー ポイント -

1、賃貸人に対して、賃貸人が変更した旨の通知をします。

2、アパート経営を継続しない場合には、賃借人に対して、賃貸借契約終了の申入れをします。

3、相続人全員が相続放棄した場合には、相続財産管理人選任の申立てをします。

 

賃貸人が変更した旨の通知

ー 作成書類 -

賃貸人変更通知書

 

ー 添付書類 -

〔必要に応じて〕相続登記後の土地全部事項証明書および建物全部事項証明書

 

ー 賃貸人の地位の相続 -

賃貸人の地位は、相続によって相続人に承継されます。(民896)

通常は、遺産分割協議を経て賃貸物件の所有権を取得する者が、併せて賃貸人の地位も承継する
のが一般的です。

なお、相続開始から遺産分割までの間に共同相続に係る不動産から生ずる金銭債権である賃料債
権は、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得し、後にされた遺産
分割の影響を受けないとするのが判例です。(最判平17.9.8民集59.7.1931.判夕1195.100)

 

賃貸人変更通知書 

賃貸人の地位が相続によって相続人に承継しても、その旨の連絡をしないと賃借人には分らない
ままですし、また、賃借人としては、今後、誰に賃料を支払えばよいのか等、不安を生じます。

そこで、新賃貸人が誰であるかを記した賃貸人変更通知書を賃借人に送付する必要があります。

 なお、賃料債権については、遺産分割協議が成立するまでは、共同相続人がその相続分に応じて
分割単独債権として取得しますが、賃借人がこのルールに従って賃料を支払うのは煩雑にすぎます
ので、実際には、遺産分割協議が成立した段階で、相続開始後それまでの賃料については共同相
続人間で清算することになると思われます。

 

賃貸借契約の終了

賃貸借契約には賃貸借期間が定められており、この期間の途中では、原則として賃貸借契約を終了
させることができません。

また、期間満了となっても、正当事由がない限り、賃貸借契約は原則として更新されることになり
ます。(借地借家28)

しかし、相続人の中にアパート経営を続ける意欲を持つ者がいない場合には、実際問題として、
アパーと経営を継続することは困難です。

この場合には、相続人から賃借人に対して、賃貸借契約の終了を申し入れます。賃借人は、これ
に応じる義務はありませんが、もし賃借人がその申入れを承諾する場合には、賃貸借契約は合意
解約され、終了いたします。

なお、解除権には不可分の原則があり(民54)これが遡及効のない解約の場合にも適用されるか
否かについては争いがありますが、相続によって共有となった建物の賃貸借契約を共有者から解除
する場合には、共有物の管理に関する民法252条が適用され過半数で行うことができます。

 

相続財産管理人選任審判の申立て

アパートの建築資金のローン返済が賃料収入では足りず、赤字経営となっているような場合には、
誰しもアパート経営を引き継ぐことに躊躇すると思います。

もし、相続人全員が相続放棄をした場合には、相続人が居なくなってしまい、相続財産であるアパ
ートの賃貸借契約が宙に浮いた状態となってしまいます。

この場合には、家庭裁判所に相続財産管理人選任の申立てをして、この相続財産管理人によって
アパートの管理を行わせなければなりません。

 

ー 相続財産管理人の権限 -

相続財産管理人は、相続財産の管理について代理権を有していますが、その管理権限は民法103条
に定めれる権限を有するものとされています。(民953.28)

これを超える行為をする場合には、家庭裁判所の許可を受けることが必要です。

<民法103に定める行為>

1、相続財産を保存する行為

2、相続財産の性質を変えない範囲内においての利用行為、改良行為

被相続人が賃貸人であった場合、相続財産管理人は、賃貸借契約から生じる賃料を受領することが
できることはもちろんのこと、家庭裁判所の許可を得ることなく合意解約をすることもできると解されま
す。

ただし、立退料を多額に支払って合意解約をするときは、家庭裁判所の許可を求めることが臨まれます。

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